黒塚 (観世流では安達原)

舞台中央に、粗末な家を表わす作りものが運び込まれます。 この中には前シテの老女が居るのですが、最初は布に覆われているため、 中は見えません。

山伏一行が陸奥の安達が原に到着し、日が暮れたため一夜の宿を借りようと、 家を探したところ、老女の家が見つかり、老女は最初断わりますが、 結局、山伏を泊めることとなります。 山伏が、家の中に枠枷輪があるのを見つけ、珍しいので糸を手繰るところを 見せてくれと言い、老女は枠枷輪を手繰りながら、身の上のはかなさを謡い、 最後に涙にくれてしまいます。

そのうち老女は、夜寒をしのぐため山に行き木を取って来ると言い、家を出ますが、 くれぐれも、閨(ねや)の内を覗かぬよう言い残します。 山伏一行の能力(寺男)が不審に思い、覗こうとしますが、山伏に止められ、なかなか 見ることができませんが、山伏が寝入ったことを確かめ、覗いて見るたところ、人の 死骸が積み重なっていることを見つけ、山伏に報告し、安達が原の黒塚に籠る鬼の 住みかに違いなく、恐ろしさの余りに、能力も山伏も、逃げて行きますが、 秘密を知られた老女が鬼になって追いかけてきますが、山伏が五方の明王に祈ると 急速に勢いが無くなり、消えて行ってしまいます。


はじまってすぐに後見の人が作りものの萩小屋の幕をはずしに行き、 あれれと思っていたら、ワキがずいぶん台詞を省略していてあっという間に、 枠枷輪の場面になりました。小学生、中学生が対象なので、 止むを得ないのですが、見ていて心の準備ができないまま、 話が進んで行った感じです。

とはいっても、なかなか良い舞台で、 老女が橋がかりを幕へ歩いている時に、ふと立ち止まって山伏達の方を振り返ったのは、 かなり凄味が感じられました(この振り返るのは、初めて見たような気がします)。

今回初めて金春流で見ましたが、枠枷輪が一体になっていました。 糸を持たないときちんと巻けない構造になっており、何回かシテが 糸を下からゆっくりとつかむのですが、そのしぐさに老女の寂しい 感情がこもっているようでした。

老女が薪を取りに出る直前に山伏達に閨を覗かないように言うときの 「のぉのぉわらわが帰らんまで」の言い方に凄味があり、ゾッとする感じ がしました。 また、閨を覗こうとする能力がそーっと動いて、ドタッと突然こけてしまう のも、後場に展開される緊迫感を予感させ、なかなか良かったです。 ちなみに、今回の能力は和泉流の狂言師の方でした(前回は大蔵流の方で、 寝ようとしても、閨の中が気になって眠れず、山伏達が寝たことを確認する しぐさがユーモラスでした)。 鬼が鉄杖を振りあげるところや、シテ柱越しに橋掛かりから 山伏を睨みつけるところなど、秘密を知られた怒りが表われており、 後半部分の鬼と山伏との戦いがおもしろい曲目でした。

この曲目で初めて、寝入ったところを表わすしぐさを見ました。 実際に体を横にするのではなく、座ったまま、 閉じた扇を持ち腕を伸ばし扇の端を頭に向け、若干体を扇の方に傾ける というしぐさで、上品さが漂うものでした。


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