鉄鍋のジャン!


現実を超えたリアル

 料理マンガには、二つの方向がある。
 あくまでも、現実にその料理が作れる事を求められるマンガと、実は現実はど
うでもよいマンガ。
 前者の典型が「美味しんぼ」や「クッキングパパ」、おすすめまんがにも入れ
てある「ハッスルで行こう」であり、後者の典型が「包丁人味平」や「ミスター
味っ子」である。(「将太の寿司」のように、この2方向の境界を上手に渡り歩
いている作品もあるが、作品として失敗しないで済むのはレアケースである)
「鉄鍋のジャン!」がどちらの作品かといえば、きっぱり、後者に分類される。
 この作品において求められるのは、物語としての現実感であり、蘊蓄やレシピ
の現実にあるモノそれ単体からもたらされる現実感には、さしたる意味はないの
である。

 冷静に考えてみれば、いくら中華が専門とはいえ、仮にも料理人がレバーの臭
み消しに牛乳を使うことを知らないなんてありえないし、デザートの材料に生き
たハトを選んだ段階で、その血でデザートを作る事に思い至らないわけがない。
 それが判っているのに、ドキドキしながらページをめくってしまうのは、この
作品の圧倒的なパワーを持つ「物語としての現実感」のせいだろう。

 作者は、単行本1巻の半ば、5話目にして、あっさりとジャンに失敗をさせて
いる。
 ジャンが万能ではないことをしらしめ、それまでのジャンの性格描写から予想
されうる「悔し涙」を見せ、それを超えて小此木の失敗談に素直に笑うジャンの
意外な一面を見せ、さらに自力で失敗の原因を発見させ失敗を乗り越えさせるこ
とで元々の魅力である自信と傲慢さを蘇らせ、また、その自信の裏付けまでして
しまう。

 こうやってキャラクターに丹念に肉付けし厚みを与えようとする作者の努力
が、あくまでも勝利を目指すジャンの行動に説得力を与え、物語を現実さえも
ぶっちぎるリアルにするのだ。


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