「頭文字D」に見られる、しげの秀一ならではの完成された「スピードの表現」
は、「バリバリ伝説」連載中に磨かれたものである。
「バリバリ伝説」におけるバイクの走行シーンでは、当初、背景にバイクの進行
方向に沿った長めの流線を流し、キャラクターやバイク自体にその流線に「沿っ
た」短い流線をかぶせる事で、スピード感を表現していた。
ところが、最後の方になると、写実的背景をバイクの走行ラインに合わせた短
めの流線で流し、キャラクターやバイク自体にはその流線とは「別の方向の」、
例えばハングオンしてコーナリングするバイクの倒し込む方向に合わせた短い流
線をかぶせる事で、スピード感を表現するようになる。
これが、実に速そうなのだ。
また、写実的背景に入れる流線も、近いアスファルトに長めの線、遠い看板に
短めの線を使う事で、よりスピード感を増している。
しげの秀一のもう一つの個性ともいえる、既製の擬音表現にこだわらない描き
文字も、そのスピード感をよりリアルなものにしている。
これらの「速さを求める主人公を、よりカッコ良く、より速そうに描きたい」
という執念にも似た作者のこだわりは、主人公の求めるもの=作者の求めるもの
であるからこそもたらされるものなのだろう。
そういう意味では、自分自身では自分の求めるほどに速く走れないという作者
の欲求不満が見事に昇華された作品であると思う。